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広島高等裁判所岡山支部 昭和30年(ネ)105号 判決

控訴人 粟井建

被控訴人 船成清忠

主文

原判決を取り消す。

本件を岡山地方裁判所津山支部に差し戻す。

事実

控訴代理人は「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し勝田郡奈義町広岡字竹ケ端七百三十九番地田一反五畝十五歩外一畝歩畦畔一歩用水溝の所有権移転登記手続をせよ、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との判決を求めた。

事実ならびに証拠関係については、控訴代理人において、被控訴人の本件田地の所有権取得原因を贈与と釈明したほか、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。

被控訴人は合式の呼出を受けながら、本件口頭弁論期日に出頭しない。

理由

控訴人の本訴請求原因として第一次に主張する要旨は、本件田地の登記簿上の所有名義は訴外船曳しかのとなつているが、被控訴人が同訴外人の生前既に同人から贈与を受け所有権を取得していたものを控訴人は被控訴人からこれを買い受けたというのである。

右主張事実によれば、被控訴人は売主として買主たる控訴人の本件田地の所有権取得登記手続に協力する義務あることはいうまでもないところであつて、たまたま登記簿上の所有名義人が被控訴人以外の者になつているからといつてこれを免れることはできない。ただこの場合には被控訴人が右登記手続申請にあたり直ちに登記義務者となれないだけであつて、実体法上登記義務者であることに変りはないのである。したがつて控訴人が本件判決によつては直ちに被控訴人から控訴人に所有権移転登記手続をすることはできないけれども、右登記義務の履行は事実上不能ではないから、直ちに強制執行ができないからといつてそれがために本訴請求が不適法とはいえない。(明治四十四年(オ)第一五一号、同年六月八日言渡大審院判決参照)

また控訴人の右主張によれば、前記訴外人の相続人七名は本件田地の所有権を承継取得したのでなく、ただ被控訴人に対し右贈与による所有権移転登記義務を承継したにすぎない。かような場合は不動産登記法第四十二条により前記訴外人から直接受贈者たる被控訴人に所有権移転登記手続をすることができるのであつて、相続人が被相続人たる右訴外人から相続によりその所有権を取得したことを登記する必要はなく、従つて相続人は共有者として登記簿上現われることがないから、右登記手続においても登記義務者となることはないのである。しかも共同相続人が承継した前記登記義務は不可分の関係において各自登記義務を負担するから登記権利者たる控訴人は登記義務者である被控訴人に対し右登記義務の全部の履行を求め得る筋合であつて(昭和十年(オ)第一二七七号、同年十一月二十二日言渡)、被控訴人に対し登記請求権を有する控訴人は被控訴人に代位してその余の相続人に対し被控訴人に対する贈与による所有権移転登記手続を求めることができるものと解するのを相当とする。この場合には本件勝訴の判決は、不動産登記法第四十六条の二所定の「代位原因ヲ証スル書面」に該当するものというべく、またかかる場合には同法第二十七条にいう「相続ニ因ル登記」に準じて取扱うのを相当とするからである。

以上の理由により本訴を必要的共同訴訟として却下した原判決は失当であつてこれを取消し民事訴訟法第三百八十八条により主文の通り判決する。

(裁判官 三宅芳郎 浅野猛人 三好昇)

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